出典
宇多田ヒカル『人生最高の日』(アルバム『Fantôme』収録, 2016)
この曲を聴くたびに不思議な安らぎがある
悲しいのに苦しくない
どこか生きていることそのものを肯定してくれる
宇多田ヒカルが歌う「that’s right」は
英語の相槌というより
「これでいいんだ」と小さく息をつく瞬間のように聴こえる
涙が出るほど静かな言葉
NHKのインタビューで彼女は言ってた
「なんであんなに苦しそうに歌ってたんだろうって思う」
――この一言が『Fantôme』の空気そのもの
それまで彼女の歌は
感情と戦いながら必死に形を保とうとしていた
けれどアルバム『Fantôme』は壊れかけた心をそのまま差し出してる
苦しさをコントロールするのでなく
受け入れることでしか出せない
「that’s right」は正しさではなく納得の言葉
人生の答えを探す代わりに
息をしている自分をそのまま肯定
『Fantôme』というアルバムは
喪失を経たあとの再生の記録
だから「人生最高の日」というタイトルが
痛みの奥にある穏やかさとして響く
個人的にこの曲の声の使い方が一番好き
感情を無理に抑えず
自然に滲み出してしまう呼吸の揺れ
宇多田ヒカルはもう悲しみを治そうとしてない
それを美しいと思う
「そんな気分」
that’s right

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