君みたいな優しい違和感は
思い出すたびに薄い霧になって
胸の内側に静かに広がる
どこまでが記憶でどこからが空気なのか
ときどき境目がわからなくなる
名前も声もはっきりしないまま
遠くの光みたいに揺れて見える
消えたはずの気配が
ふと夜の帰り道のどこかで息をしてる
電車の窓に映る知らない顔たちの中で
泣いている誰かがいた気がして
誰も気づかない風景のすみで
君の視線だけがそっと残っていく
君なら見ていただろう
見ていないふりの中で
触れない手つきのまま
必要な距離で必要なだけ
言葉を選ぶより
言葉が来るのを待つみたいな人だった
遅れて届く声ほど
胸の深いところに沈むって
君が教えてくれたような気がしてる
あの日なにも言えなかった私の沈黙と
君が言わなかった何かが
同じ静けさの中で重なって
少しだけ温かかった
「大丈夫じゃない」を抱えたまま歩く夜
街灯のにじんだ光の中で
君の不器用さがふいに現れては消える
記憶なのか願いなのか
判別できない淡さで
世界になじむ音がしない日は
君の気配がまだ息をしてる気がして
それが誇らしいとも
苦しいとも言い切れないまま
ただ前に進んでいる
👻
ここに置く言葉も
誰に届くとも思っていないし
消えてしまうのならそれでもいい
霧が朝に溶けるみたいに
残った気配だけが静かに漂えば
それで十分

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